【識者に聞く非認知能力の育て方】中山芳一さん編<後編>「中山家流子育て術。自己肯定感が非認知能力形成の土台」

【識者に聞く非認知能力の育て方】中山芳一さん編<後編>「中山家流子育て術。自己肯定感が非認知能力形成の土台」

インタビュー

識者に聞く非認知能力の育て方。中山芳一先生編。
最終回となる後編は、「振り返りの重要性」と「中山家流子育て術」についてお聞きました。

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中山芳一(なかやま よしかず)

1976年岡山県生まれ。
岡山大学准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるよう尽力。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。

振り返りの重要性「2030年の学習者」

篠田

教育においてはPDCAじゃなくてPDSA(CheckではなくStudy)。ちゃんとスタディしましょうというのも印象的でした。

中山

反省的実践家とよばれる領域があります。
画一的な正解を持たないために、反省し続けながら自らの専門性を向上させていくことが求められるの人たちです。
アメリカのドナルド・ショーンの理論なのですが、対人関係の仕事をする人の多くは反省的実践家です。
ただし、このときの反省は、決して自分を責めることではなく、新しい気付きを見出すことです。
いきあたりばったりにせずプランを立てる、口だけでなく実践する、やりっ放しにせずに実際に振り返って次へつなげていく。
ちなみに、最近ではOECDが2030年に目指す学習者として「AAR(Anticipation, Action, Reflection=見通し、行動、振り返り)」というサイクルも提唱していて、こちらを引用することも増えました。
振り返りは事中と事後に行うことが効果的とも書かれています。

中山

正確には事後が事中を作るです。
これもドナルド・ショーンの言葉です。
リフレクション・アフター・アクションを繰り返すことによってリフレクション・イン・アクションができる。
ここでいうリフレクションは振り返りです。
振り返りの本来の目的は客観視ですので、アフターアクションで自分を客観視することを習慣づけると、リアルタイムで客観視することができるようになります。
すなわちこれはメタ認知のことです。
振り返りでいえば、例えば日記は書いても読み返さないから意味がないという人もいます。

中山

読み返しはしなくても書くことによって自分の理解が深まります。
書いておしまいでいいんです。
ダグ・ハッカーという心理学者も書くことは高度な応用メタ認知だということを言っています。
書くことで自分を客観視できています。
書いて振り返ることで自分を理解し、これからの生活や人生をどうしていくか考えることができます。

中山家流子育て術 ― 自己肯定感あってこその非認知能力

篠田

土台となる自己肯定感があってこその非認知能力ということも著書の中で書かれていました。引用されていた秩父神社の「赤子には肌を離すな、幼児には手を離すな、子供には目を離すな、若者には心を離すな」私も好きな言葉です。

中山

幼少期の頃は自己肯定感が高まるように無条件の愛情を注ぐことが大切ですね。
秩父神社の『親の心得』にある「赤子には肌を離すな、幼児には手を離すな、子供には眼を離すな、若者には心を離すな」は、データや科学抜きで発達段階に合わせてどう向き合うかを導き出して、たった4行に凝縮させているのは本当にすごいですよね。
日々の生活の中からも人間は学ぶことができる。そこに子供自身がアンテナを立てて興味の対象が広がればその先の可能性は大きく開けると思います。
箱の中の学びでは認知能力は高まりますが不確実性=未知の領域にはたどり着きにくいですね。
子供と関わり方、関係性に悩んでいる方も多いと思います。

中山

中山家はシンプル子育てです。
妻とも、4歳ぐらいまでは子供を徹底的に受け入れるということを共有しています。
それ以外はなにをやっても基本的に自由。
また、それ以降も小学生ぐらいまでは好きなことだけさせます。やりたくないことは無理やりさせない。まあ、本当は良くないですが、娘の宿題を僕が代わりにやったこともあります。(笑)
なるほど。中山家では親子相互の信頼関係がしっかりあるからできるんだろうなと感じます。

中山

徹底的に受け入れるという軸をもっており、それが絶対にぶれないのでできていると思います。
さすがに3歳の子はまだわからないですが、中1と小1の子はそれを理解してますね。
子供がYouTubeを見すぎるというのも問題になっていますが、そこを制限することは良いのでしょうか?

中山

親の視点で見てほしくないコンテンツってありますよね。
そういうコンテンツを子供が見ているのを発見したら親はフランクに言ってもいいと思います。
なぜそれが駄目なのか理由をちゃんと説明してあげればそれは子供に考える機会を与えることになります。
ビジネスでもPDCAでは遅い、臨機応変にプロアクティブにものごとを進めていくことが重要という考え方が浸透してきていますが、仕事ではできても子育てになると目標立てて、計画してみたいなことをやってしまうことが多いんじゃないかと思います。

中山

本質からブレなければ動きながら考える、間違えたら修正する、で良いかと思います。
中山家は中1、小1、3歳と3人の子供がいますが、3人に共通しているのは自己肯定感が高いということです。
一番上のお姉ちゃんは先日こんなエピソードがありました。
意見文を書く、という宿題がでたけど何を書けばいいかわからないというんです。意見文なんだから意見したいこと書けばいいじゃんといったら、意見したいことって何って聞くんです。不満に思っていることとか批判したいことなにかないのと聞いたら、自分は幸せだから不満なことなんてないと言ってました。それは素晴らしい(笑)
今のエピソードのように会話することで子供も自分自身を客観視できますね。

中山

自己肯定感が高いと、その子から愛らしさがでてきます。
愛らしさがあれば困っている時に誰かが助けてくれる。
愛らしさを育むのは自己肯定感が重要です。
4歳ぐらいまでにしっかりとアタッチメントして愛情を注いであげる。
愛されているから自分も好きになれるし、人を愛すこともできる。
そして、もう一つ重要なのは反応(レスポンス)です。
特に、言語理解ができる段階になると、呼びかけに応じるかかわりが重要ではないでしょうか。
最後になにかに挑戦しようとしている子供や非認知能力の必要性を感じている親へメッセージをお願いします。

中山

とにかく挑戦してみて欲しいですね。
やったことへの意味づけは後からいくらでもできます。
勝ち負け、合格不合格といった二択の世界だけではなく、その過程に柔軟な意味づけを是非行って、結果はどうであれ挑戦それ自体に、やって良かったねといえる親子であって欲しいですね。