【識者に聞く非認知能力の育て方】中山芳一さん編<前編> 「タテ糸とヨコ糸で考える発達に応じた子供との向き合い方」

【識者に聞く非認知能力の育て方】中山芳一さん編<前編> 「タテ糸とヨコ糸で考える発達に応じた子供との向き合い方」

インタビュー

識者に聞く非認知能力の育て方。
シリーズ第2回のインタビューは、Welldone!を運営するeee, Inc(株式会社スリー)のアドバイザーで、日本における非認知能力育成の実践研究を精力的に進めている岡山大学全学教育・学生支援機構准教授の中山芳一先生にお話を伺いました。ご自身の著書「学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす」(2018)「学校、家庭、職場で活かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ」(2020)をさらに掘り下げた内容から、中山家流子育て術まで年齢問わずお子さまの可能性を伸ばす示唆に富むインタビューを前・中・後編の3回に渡りお届けします。

中山芳一(なかやま よしかず)

1976年岡山県生まれ。
岡山大学准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるよう尽力。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。

非認知能力はバズワード?

中山先生と弊社代表篠田

篠田

本日はありがとうございます。とにかくお忙しそうですね。

中山

ありがたいことに年々研修や公演などのオファーが増えています。
今日も午前中は鳥取で研修があり、そこから新幹線で東京に向かう中でも、新たに広島での研修のご連絡をいただきました。コロナ禍で対面ではなくオンライン研修が増えており、そうすると1日3件とか普通にできちゃうんですよね(笑)
企業向け、学校向け、保育施設向けなど様々な研修を行っていらっしゃると思いますが、特に最近増えた研修はありますか?

中山

一昨年ぐらいから学校向けが圧倒的に増えています。
学校単位、市区町村単位、都道府県単位の教育委員会主催で地域の小中学校の校長先生向け、教頭先生向けの研修が特に増えていますね。
今、非認知能力に注目が集まっています。新学習指導要領にも盛り込まれていますし、VUCA(不確実)な時代という背景も影響しているのでしょうか?

中山

まさにおっしゃるとおりですが、実際僕も著書も含めて公演の中でも不確実な時代だから学力ばかり重視するのではなく生きる力は大事だと言ってきました。
自分としてはあまりそんなつもりはないのですが、それが結果的にやや煽っている部分もあったのかもしれません。
2018年に本(「学力テストで測れない非認知能力が子供を伸ばす」東京書籍)を出したとき正直1〜2年後には「非認知能力って言葉もあったね」という状態になると予想していました。
当時は「非認知能力」というタイトルがついた本は数冊だったのが、2021年現在では20冊を超えようとしています。それぐらいバズっています。こうなってくるとまたEQの二の鉄を踏むのではないかと危惧しています。
今書いている本には、非認知能力は流行じゃなくて本質的なものなんだよということを書いています。
「非認知能力」という言葉の定義をしっかり理解しないままなんとなく使っている人も多いかもしれませんね。

中山

今あえて「非認知能力」という言葉をバズらせなくても、本質的に非認知能力は大切なことです。
現在、スウェーデンの教育現場の人とあるプロジェクトを進めているのですが、その方に非認知能力の話をするとそれって当たり前のことで今更話題にすることでもないよね?と言われます。
それぐらいスウェーデンでは当たり前のこととして捉えられています。
著書の中では、非認知能力が何によって構成されているか自分で整理することが大切と書かれています。

中山

例えば自分が今まで生きてきた中で社会でより良く生きていくために必要な能力ってなんだっけ?これから生きていくためにどんな能力が必要だろう?
自分のパートナーや子供に対して、あなたはこの力が優れているよねといったことをちゃんと言語化する、それも道徳の教科書に乗っているような親しみのある言葉に分解してあげることが必要だと思います。

タテ糸とヨコ糸で発達を考える

篠田

著書の中で書かれていたタテ糸(成長段階)とヨコ糸(成長の領域)の話がとても興味深かったです。

中山

タテ糸は発達段階の話です。
乳児期、幼児期、児童期、それから青年期、成人期といった客観的な年齢による糸が作られます。
それにくわえてヨコ糸の部分、すなわち頭、体、情動的な部分があると考えます。
するとタテとヨコの糸で考えることができます。
児童期の頭、体、心という具合に発達を捉えています。これが基本的な考え方です。
とても重要な考え方だと思いますが、保護者や教育現場の方とお話される際、タテ糸とヨコ糸の理解を前提とした子供とのコミュニケーションはどの程度できていると感じますか?

中山

専門職の人も含めて実はあまり活かせていないと思います。
発達理論にはエリクソン、ピアジェ他いろいろな学説があるのでどれを採用していいか正解がない。
また、一般の人にわかりにくいと感じさせてしまう要因としては、とりわけ日本の研究者は統計的なデータをそのまま提示してしまう傾向にあるんですよね。
例えばアメリカなどではそれをわかりやすくエッセイ的に表現されるなどしています。ここが日米の大きな差ですね。発達のデータをそのまま見せられても一般の人にとってはピンとこない。
データ、理論、科学が皆さんの子育てや教育においてどういう意味を成すものかということを具体的にしっかりお話をさせていただくこと、それが僕の役割です。
子供を理解する上で特に重要な発達段階はありますか?

中山

児童期に関してはなんといってもギャングエイジ(9-10歳)が一番重要です。
ギャングエイジは節目なのでここが分かれば両サイド(8歳まで、11歳以降)が理解できます。
知的な部分と情動的な部分が重なってくるのもこの年代です。
さらにそこに身体的な部分も絡んでどう成長していくかが分かってきます。
ちなみに、ギャングエイジの時期に突入した子供に対しては、頭の中が大人だと思ってやり取りした方がいいよと保護者の方々にはアドバイスしています。