【識者に聞く非認知能力の育て方】西岡壱誠さん編<中編> 「非認知能力って計測できる?非認知能力が上がれば学力も上がる!」

【識者に聞く非認知能力の育て方】西岡壱誠さん編<中編> 「非認知能力って計測できる?非認知能力が上がれば学力も上がる!」

インタビュー

識者に聞く非認知能力の育て方。今回は、第1回「西岡壱誠さん」のインタビュー中編をお届けします。西岡さんの考える非認知能力の定義から、非認知能力が上がったことを計測できるのか否か。子供のやる気に火を付け持続させる親の接し方とはなど、今回の示唆に富んだインタビューとなっておりますのでぜひご一読ください。

西岡壱誠
西岡壱誠(にしおか いっせい)

1996年生まれ。
偏差値35、2浪という崖っぷちの状況で開発した「暗記術」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、東大合格を果たす。
マンガ「ドラゴン桜2」(講談社)に情報提供をしており、ドラマでも監修を務める。全国6つの高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施、高校生に勉強法を教えている。
著書『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社)は19万部のベストセラー。
TW: @nishiokaissey

非認知能力が上がれば学力も上がる

篠田

西岡さんが考える非認知能力とはどういうものでしょうか?なぜ今の時代注目されているのでしょうか?

西岡

確かに非認知能力は最近とても話題になっていますが基本的にはずっと昔から言われている人間力ということですよね。
シンプルに考えて人間力がある人は強いし勝てる。逆に人間力がないとどこかでつまずいてしまう。
私達が指導している学生でも、勉強できる生徒は勉強しているからできるわけではなくて、例えば数学を例にとると、「自分は今、微分のところで分からない問題があって、この考え方をどう解釈していいか悩んでいる、それで先生に聞いている」というように、自分で現状分析をして、その上で目標設定して、周りの人に聞きながらクリアにしていく、いわば勉強もWelldone!でいえばプロジェクトなんですね。
プロジェクト化できるかどうかは勉強ができるかどうかではなく、人間的な素養のほうが重要。
誰かから教わってできるようになったわけではないし、数字で測れるものではないですが、そのような能力を持っている生徒のほうが成績も上がりやすい。
それって受験だけでなく、すべてのことに共通してますよね。
これとまったく同じことを大人になってから仕事ですればいいんです。
「クライアントA社の状況どう?」と上司に聞かれて、「昨日、企画部のBさんにヒアリングに行ったんですけど、✕✕という課題を見つけて、先輩の▲さんに相談してさっそく提案書作ってます。来週の社内ミーティングまでにドラフト仕上げる予定です。これが受注できれば昨年より120%で売上伸ばせます」と即座に言える人は営業成績も上がるんですよ。
スポーツでも同じでしょう。
大人がやらなければならないことは、即物的にこれをしたら成績上がるよと子供に教えるのではなく、人間的な成長を促してあげることです。
長期的にみてそのほうがより重要だと思います。
よくあるのですが、中学受験や高校受験の合格不合格の判断軸だけ、つまり認知能力だけで親が子供を評価するとどこか歪んでしまうんです。
甲子園目指して一生懸命頑張った子が甲子園に行けなかった時に責める親ってどうですか?それと同じことが受験に関しては起こっていませんか?ということです。
勉強に関して結果だけを見ることはなぜ起こってしまうのでしょうか?

西岡

親って責任に対するそもそもの前提が違うと思っています。
親って子供の人生に責任を持たなければならないと考えます。ある一面においては正しいと思います。ただ、責任の持ち方が違うんです。
なんとなく学歴がないとだめとか、短期的な方に流れてしまい、本質的なことを見れていない。
非認知能力という言葉を僕も使いますが、非認知能力が少し能力主義的になってしまっているのはとても危惧しています。
コミュニケーション能力もあげなきゃ、じゃあコミュニケーション能力をあげさせるための塾に入れさせます、、、そういうことじゃないですよ。
少し前まで大企業に入ることが安定につながるという考えが一般的でした。だから今でも子供をいい学校に入れて大企業に就職させたいという親は多い。
一方で、世の中の仕組みが変わればその前提も変わるので、生きる力が重視されてきています。
非認知能力を育むために子供のうちは成功と失敗どちらを多く経験することが良いでしょうか?

西岡

成功か失敗かの二元論で考えてしまうと、実は間違ってしまいます。
例えば、柔道の大会でベスト8に入った、これは成功か失敗か、子供にとってそれが成功か失敗かは判断できない。
それよりも注視すべきは挑戦だと思っています。挑戦を積み重ねてきた子はその後も伸びやすいです。挑戦すれば必ず失敗するんです。
野球だと打率3割で成功、3/10ですよ!みんな成功を求めすぎなんです。
成功を求めるとなにが良くないかというと挑戦回数が少なくなるんです。
見るべきは成功でも失敗でもなく挑戦だと思います。
成功したり、失敗したり、成功なのか失敗なのかわからないことがあったり、みたいな状況を積み重ねることがのほうが重要だと思います。
宇都宮のいわゆる偏差値が高いといわれる高校の生徒を教えているのですが、その子達に「○か✕かで答えて」と問いかけると、どちらかに手を挙げると思いますよね?これが挙げないんですよ。
わからなかった人と聞いたらみんな手を挙げるんです。
お前らそんなに失敗したくないのか?(笑)失敗できない、失敗したくないという考え方をしてしまう子は挑戦できない。
これは大人にも責任があるんです。一回やらせてみて失敗させることって大人はなかなかやりずらいんです。
基本的には目の前に石があったら危ないから避けてと言ってしまう。
転んでもいいじゃないですか。子供の好きなようにやらせてみて、その後どうすればよかったかコーチングすればいいんです。
その際のコツは「good and better」いいところを褒めて、より良くするためにどうすればいいかを考えさせることです。悪いところを指摘するのではなくベターを話してあげることが重要です。
学歴主義というか、小学受験、中学受験でいい学校に入れてある意味レールに乗れば将来の苦労が少なくなるという考え方はまだまだ根強いと思います。

西岡

受験のあり方を変えないと難しいと思う部分はあるものの、レールに乗って名門校に受かった子たちがどうなるか?
非常に言い方悪いですが、そのまま順当に東大に入ってくる子たちが、どこかで空虚な人間になってしまうことがあります。
僕の友達にもいますが、世間的には東大受かって良かったけど、これまで親の敷いたレールにのって来たことに対する虚無感を感じてその後の人生が難しくなることもあります。
非認知能力が能力主義的になっていることを危惧しているというお話がありましたが、Welldone!が非認知能力育成をサポートするサービスですという話をすると、非認知能力が上がったことはどうやって分かるのか?という質問を受けることがあります。それに対する回答はありますか?

西岡

非認知能力をどうやって図るかという問いはナンセンスだと思っていますが、たしかに世の中に対してサービスとして提供するとなるとそれは重要なことだなとも思います。
僕らのやっているリアルドラゴン桜プロジェクトに参加すると、より受験に対して前のめりに取り組めるようになるというアプローチをとっています。結果として合格実績もあがります。
非認知能力向上を計測するには2つ方法論があると思っています。
1つ目は、非認知能力があがれば認知能力もあがるということです。2つ目は、言語化能力がどう変化するか?ということです。
僕たちのアプローチでいえば、生徒に受験する大学となぜその大学を目指したいのかを言語化してもらいます。
高校1年生2年生のうちって、自分の行く大学のことをそんなに真剣に考えいていないので名前を知ってる大学書いてる子が大半です。
この段階で、「なぜその大学に行くの?」という問いに対して、「〇〇という理由で目指している」という子のほうが明確に頑張ります。
次に文字分量をみます。今までこの質問に20文字の回答しかなかった子が200文字書いてきたら、それは定量的に非認知能力の向上をみることができるのではないかと思っています。
もちろん質も見ますが、あまり考え慣れていない子がちゃんと考えられるになった(文字量)、次に内容がとっちらかっていた子が理路整然と明確な理由を書いてきた(質)というステップで可視化できるのではないかと考えています。
Welldone!でいうとプロジェクト終了時に振り返りができるフォームがあるといいかもしれないですね。
目標と行動も、もっと本質的に考えて、なんでこのプロジェクト作るのか?このプロジェクトにどんな意味があったのかを言語化することができるとより良いものになりそうです。

親子のコミュニケーションで重要なのはプロセスを見てあげること

篠田

プロジェクトの設定において、目的を掘り下げていくことが親子のコミュニケーションにおいてとても大切なプロセスですね。

西岡

おっしゃるとおりだと思います。なぜ?を繰り返すことはとても必要なことです。
目的の深堀りはコミュニケーションによってしか生まれません。
私の知っている東大生の中でこの子は本当にすごいなと思う学生の親御さんの教育に興味があって聞いてみたことがあるんです。
その子は、「親から頭ごなしに行動を否定されたことが一度もないけど、毎回なんで?って聞かれる」って言うんです。なるほどなと関心しました。
そういうことを小学校低学年のうちから親子のコミュニケーションとして習慣化することが大切ですね。
目標を立てて行動を計画したあと、楽しく行動を行うためにどんな工夫をすれば良いでしょうか?

西岡

親がフィードバックをしてあげることが重要だと思います。
やったことに対して、やったね、頑張ったね、できたねと言ってあげることがとても大切です。
例えば、夏休みのラジオ体操で、最終的にスタンプが全部並んでいて花丸もらえたら嬉しいけど、夏休み始まったばかりでコンプリートまであと30日もあるとなると辛い。
あとは、評価軸を増やしてあげることもポイントだと思います。何日間連続でとりくんだという評価軸以外に、連続ではできなかったけど、1週間で5日も取り組めたねという具合に褒めるポイントを作ってあげることも有効ですね。
最初から完璧を求めるのではなくて、徐々に難易度を上げていくステップ化は重要だと思います。
最初から「東大にいけ」と言うのではなくて、段階を踏んであげることが大切だと思いますね。桜木先生全否定になっちゃいますが(笑)
西岡さんとご家族の関係はどのようなものだったのでしょうか?

西岡

母親は受験とか全然わからない人だったので、自由にやっていいよ、道はちゃんと整備するからというスタンスの人でした。
母親の言葉で印象に残っているのが「受験会場にたどり着いた段階で私の仕事は終わり」という言葉です。
合格発表の日ではなく、試験を受けた日の夜にごちそう作ってくれて、終わってよかったねと言ってくれる、当日に体調悪くて試験を受けられないことがあったら自分の責任だから、神社で神頼みするときにも合格祈願じゃなくて試験を健康に受けられるようにと祈っていたようです。
そういう関わり方っていいなって思います。
あと、僕がマイナスなことを口にすると小遣いが減るというシステムがありました(笑)
2浪していたときにネガティブな事も口にすることがありましたが、母親からは「私の気分が下がるからやめてくれる」としっかり小遣い減らされました。
マイナスな事言うとちゃりん♪って音がする(笑)
そのようなお母さんのスタンスは西岡さんにとってどう写っていましたか?

西岡

とてもありがたかったです。
結果に親が拘泥するとやっぱりどこか歪むと思うんです。
ドラゴン桜の中にもでてきますが、結果に一喜一憂するのではなく過程を見てあげることですよね。
社会にでたらどうせ結果しか見られないのだから、親だけは結果じゃなくて過程を重視してあげることがとても大切だと思います。
お父さんはどういう関係だったのでしょうか?

西岡

父親とは本当に喧嘩ばかりしてました(笑)
父親は単身赴任だったのですが、合格発表の前日に突然帰ってきて、なにか大量のファイルを取り出して見せるんです。
何かというといろんな予備校が出しているセンター試験のデータなんですが、今から受かっているかどうか調べようと言い出したんですよ。
「発表明日だぞ!」って喧嘩したエピソードがありましたね。
父親が言うには「でも落ちたらお前泣くじゃん」って、泣かねーよ。
今思えば、大学落ちてしまってこの子は大丈夫かと心配してくれていたのですが、子供の僕にはまったく伝わってなくて、この人結果しか見てないなと思いましたね。
親御さんって自分の気持が子供に伝わっていると思いがちですが、案外伝わっていないんですよね。
結構僕の父親と似たようなことしている親御さんはいるんじゃないですかね。
「結果よりも過程が大事だよ」というのはうるさいぐらい口に出して伝えたほうがいいかもしれない。そうしないと子供に気持ちが伝わらないんですよ。