【識者に聞く非認知能力の育て方】西岡壱誠さん編<前編> 「勉強ってかっこいい!スマホ時代に子供の自主性を伸ばす親の関わり方とは?」

【識者に聞く非認知能力の育て方】西岡壱誠さん編<前編> 「勉強ってかっこいい!スマホ時代に子供の自主性を伸ばす親の関わり方とは?」

インタビュー

識者に聞く非認知能力の育て方。
記念すべき第1回目のインタビューは、この夏(2021年)大ヒットしたTBSドラマ「ドラゴン桜」の原作「ドラゴン桜2」(講談社)の監修を努め、現役東大生でありながら自身の会社カルペ・ディエムを経営する西岡さんにお話を伺いました。
1時間半に及ぶインタビューは勉強に対する価値観の転換からスマホ時代の子供との向き合い方、西岡さんの学生時代のご両親との関係性、非認知能力を伸ばすことの重要性と大人の関わり方など多岐に渡りました。
本記事ではインタビューの内容を余すことなくお伝えするため、前・中・後編の3部作で掲載いたします。

西岡壱誠
西岡壱誠(にしおか いっせい)

1996年生まれ。
偏差値35、2浪という崖っぷちの状況で開発した「暗記術」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、東大合格を果たす。
マンガ「ドラゴン桜2」(講談社)に情報提供をしており、ドラマでも監修を務める。
全国6つの高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施、高校生に勉強法を教えている。
著書『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社)は19万部のベストセラー。

TW: @nishiokaissey

ドラゴン桜が与えた価値観「勉強ってかっこいい」

篠田

ドラマ「ドラゴン桜」が大ヒットしました。私も毎週楽しみに拝見しておりましたが、反響はいかがですか?

西岡

ありがとうございます。
2005年に放映された「ドラゴン桜」は、それまでガリ勉、眼鏡といったネガティブなイメージで捉えられていた「勉強する」ということに対して、それが「かっこいいもの」という価値観を提供してくれました。
特に地方でその傾向は顕著でした。僕自身もそうだったのですが、中高生にとってサッカーやバスケなど部活で活躍している人がかっこいい、逆に帰宅部で勉強ばかりしている人ってかっこ悪いよねとう風潮があったと思うんです。
ドラゴン桜原作者の三田紀房先生は、ドラゴン桜を連載する前に、高校野球を題材にした漫画(「クロカン」「甲子園に行こう」)を連載されていました。先生は勉強もスポーツも同じものという考えをお持ちなんです。東大に合格するのも甲子園に出場するのも、目標を立ててそこに向かって努力する過程は一緒ですよね。
スポーツをすることは非認知能力の向上に良いとされていますが、勉強だって過程は一緒だしそもそもその2つを切り分ける必要はないと思います。
勉強を頑張ることもスポーツをすることと同じようにかっこいいし、そもそもやっぱり勉強って良いものだよねという価値観をドラゴン桜は1・2共通で基本思想として持っています。
その中で2021年という高校生にとってもスマートフォンが必需品となった時代の受験を描いたのがドラゴン桜2です。
ドラマの中の藤井くんや早瀬が頑張っている姿を見て、勉強ってかっこ悪いものじゃないんだなという気づきがあり、自分も勉強やってみようかなという生徒さんが出てきたのはとても良い側面だと思います。
西岡さんの著書「東大メンタル」を併せて読むとドラマの理解が深まると感じています。
「東大メンタル」の中で、東大に合格するために一番に必要な能力は「やりたくないことでも結果を出す力」とありましたが、これはどういうことでしょうか?

西岡

この言葉自体は、わかりやすくデフォルメしているところもありますが、勉強って多くの学生さんにとってはやりたくないものだと思います。
でもやらなければならないものなわけですよね?その中で、やってみたら実は楽しかった、続けていくうちに段々楽しくなるということもあるんですよね。
個人的な考えでは、どういうふうに主体的に勉強することの意味づけをしていくかが重要だと思います。
この本の中では「穴掘りのジレンマ」を取り上げていますが、目的のないことをやらされるのが人間は一番つらいです。
勉強も一緒で、なんでやるのかがわからないからやらない。
最初はなんでもいいので、実際に現役東大生の中にも声優と結婚したいから勉強頑張っているという知人もいますが、なんでもいいので何か目的を持つことが第一歩目ですよね。
何か目的がないと頑張れないというのは真理だと思います。
Welldone!の機能にもありますが、それが「ご褒美」でもいいと思います。
ご褒美がなかったら頑張れないという世界観になってしまうとちょっとよろしくないですが、ご褒美が助走になって続けられれば最初のきっかけとしては有りだと思います。
以前ニュースで、東大受かったら300万円上げるから頑張れという親がいました。そりゃ頑張りますよね(笑)。
賛否両論ありますが、人間そんなものでもいいんじゃないでしょうか。
やってみて気づくこと、得られることはあるし、動機に貴賤はなく、何かやってみるということが主体性につながり意味づけがされたということなのかなと思います。
やりながらはっきりした目的が定まってくることもあるでしょうし、もっとこうしたほうがいいんじゃないかという工夫も生まれてくるんじゃないでしょうか。

スマホ時代に子供の主体性を育てるには楽しんでもらうこと

篠田

今のお話の中で「主体性」というキーワードがでてきました。
私自身も企業で人事担当だったことがあり、主体性の重要性は身にしみて感じているところです。
非認知能力の中でも、主体性は中心的な存在だと思いますが、なかなか前向きに一生懸命取り組めるものに出会えない子どももいると思います。
その子たちにアドバイスがあればお願いします。

西岡

正直、そういう子は多いです。
そりゃ子供はやりたくないことに敢えて取り組むのって嫌じゃないですか。
なんといっても今の時代にはスマホがあります。
スマホって楽しすぎるんです!勉強しているよりYouTube見てたほうが楽しいんですよ。
40〜50年前に受験された年配の方にお話を伺った際、大した娯楽もなくて勉強するしかなかったけど、勉強することが楽しかったとおっしゃる方もいます。なるほどなと思いました。
逆に考えると、勉強が楽しいと分かれば良いってことですよね。
楽しい勉強って実は結構あって、人にもよりますが、歴史漫画読んで楽しい人って多いですよね。
親やまわりの大人が、勉強の楽しさを見つけてあげる、伝えてあげることができると良いのかなと思います。
結局、何らかが楽しくないと続かないので、ゲーミフィケーションだったり、どんな手法でも良いので楽しく取り組める要素が必要かなと思います。
なるほど。勉強することが楽しいと思ってもらうように親はどのように関われば良いでしょうか?

西岡

例えば、理科実験教室につれて行くとか、今ならYouTubeで遊びのなかから勉強になるようなチャンネルも多くありますよね。
そういう楽しく勉強ができるコンテンツに対する感度を親が高めて、子供をそこに送り込んであげることが重要かと思います。
その際、親が教えるというよりは、親も一緒に楽しむというスタンスが重要かもしれないですね。
こうやれ、とか、こういんもんなんだというスタンスを親がとってしまうと子供は楽しめないんですよ、結局。
親と一緒にゲームするとか、親も楽しんでいる、子供のほうが勝ってしまうような状況があってもいい。
今でもボードゲームで論理的思考をつなげて答えを出すものだったり、勉強になるようなゲームはたくさんあります。
そういうゲームなどを親子で一緒にやるのはおすすめですね。
YouTubeにある楽しく学べるコンテンツをキュレーションするサービスがあると面白そうですね。

西岡

そうですね、YouTubeはキュレーションできないのが弱点ですね。
テレビなら番組表があるので、番組表みながらこの時間のこの番組みようねという会話ができる。
YouTubeにはそれがないので、何をどうみたらいいかわからず、お奨め頼りになってしまうので、今の段階では親の感度を上げておく必要があります。
だからそういうサービスがあったら良いですし、時間があれば僕が作りたいですね(笑)
子どもの学びに関して、親があまり前に出過ぎるのも良くないのでしょうね。

西岡

キュレーションまでは良いと思います。
これ面白かったけど一緒に見ない?ときっかけづくりをするのはいいと思います。
ただ、子供から離れる時期の見極めは大事ですね。
小学校高学年に上がってくるにつれて、なんで親と一緒に見ないと行けないの?となってくるので。
これ、YouTubeだとわかりにくいですが、本で考えると分かりやすいと思います。
子どもが小さい時には、最初は絵本の読み聞かせから始めますが、小学生ぐらいになると自分で読むようになり、もう少し年齢上がってくると自分が読みたい本を欲しがる。
本の場合はそういうステップを踏んでいく、YouTubeも根っこは同じなので子どもが自分で選べるまでは親からお奨めしてあげることは必要だと思います。
親の関わり方で「手をかけ、目をかけ、心をかける」というステップを意識していないと、親が子供離れできず子供の自立が遅くなるということもあるのでしょうか?

西岡

よく例に出すのですが「少子化ってどういう時代?」ということなんです。
親御さんが小学生だったころと今の小学生が生きている時代って決定的に全然違う点があるんです。
少子化というのは言い方を変えると大人が多い時代です。
昔の子供って結構とんでもないことしてましたよね?親が見ていないところで、隣の家の塀を登ったり、カタツムリを大量に捕まえてくるとか、今はそれがない。
なぜならば1人の子供に対して見ている大人が多いので、子供がとんでもないことしようとすると必ず見ている人がいるんです。
そうすると子供の行動は自ずと制限されてしまう。
そういう時代に今の子供は生きているから、主体性は伸びにくい。
実は今でも子供が5人集まれば、大人が見てなければとんでもない事をしだすんです。
今の受験生を見ていると、やっぱり親の力というか親の意向が昔よりも受験市場も含めてどんどん強くなっている。
「親にこの大学はちょっとやめておきなさいと言われたんですけど、どこの大学にいけばいいですか?」と先生に言ってくる生徒も珍しくありません。
自分の進路を決められない子が大量に排出されている。これは結構な社会課題だと思っています。
だから僕たちは「前のめりに自分の人生を主体的に選択すること」をテーマとしており、だからこそドラゴン桜に関わっています。
親がいろいろ言ってるけど、君は東大に行きたいんだろう?だったら行けばいい。そういう状況なので、子供はどんどん手離れしていくという前提に立つほうがいい。
子供と接する中で親の自分がいなかったらこの遊びは成立しないというものは最初から廃してあげる。
子供たちだけで完結できるものを与えてあげるというのがいいと思います。子供が伸び伸びと自分で考えて遊べる環境作りをしてあげることは、非認知能力形成の第一歩だと思います。