【識者に聞く非認知能力の育て方】船津徹さん編<前編> 「子どもの強みを見つけるカギはお父さん?」
識者に聞く非認知能力の育て方。
シリーズ第3回のインタビューは、日米の教育現場で30年に渡り、5000人超のグローバル人材を育成してきた船津徹さんにお話を伺いました。
著書である『世界標準の子育て』を掘り下げた内容から、「継続」することの尊さやコツまで子どもの未来をより良くしたいと願う親にとって多くの気づき、学びがあるインタビューの内容を前・後編の2回に渡りお届けします。
1966年福岡県生まれ。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、故七田眞氏に師事、幼児英語教材の制作に従事する。その後独立し、米ハワイ州に移住。2001年ホノルルにTLC for Kidsを設立。歌と映像を組み合わせたオリジナルのフォニックスプログラムを開発。同フォニックスプログラムは全米25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。2020年までに延べ5000名以上の子どもの教育に携わる。同校の卒業生はハーバード大学、イエール大学、ブラウン大学、ペンシルバニ大学など、世界最難関のアイビーリーグを始め、世界各国のトップ大学へ進学し、グローバルに活躍している。その実績が評判を呼び、ハワイに住む経営者、スポーツ選手、アーティスト、芸能人などの子どもが順番待ちとなる人気を博している。
-著書
『世界標準の自己肯定感の育て方』KADOKAWA
『世界で活躍する子の〈英語力〉の育て方』大和書房
『世界標準の子育て』ダイヤモンド社
『すべての子どもは天才になれる、あなた(親)の行動で』ダイヤモンド社
子どもの強みを見つけるカギはお父さん?
本日はお忙しいところ、インタビューをお受けいただきありがとうございます。本日は宜しくお願い致します。
船津
宜しくお願いします。
まずはじめに、コロナ禍で多くのご家庭で環境の変化があったかと思いますが、船津さんに寄せられる質問に変化はありましたか?
船津
全体としては、コロナによる環境の変化によって、親の立場からすると良い面と悪い面の2つの側面があると思います。良い面としては、子どもと一緒にいられる時間が増えたことで、子どものことがよく分かるようになったということです。アメリカではオンラインで授業をしているので、子どもがどういった姿勢で授業に参加しているのかを横でみることができてしまいます。今までは学校の中で分からなかった部分が垣間見えるようになったことで、親視点では子どもの状況をより理解しやすいという点で良かったことなのではないでしょうか。一方で悪い面としては、子どもがずっと近くにいることで悪い点が目につきやすくなったということです。当然親や家庭にもよりますが、どうしても小言が多くなり手出し口出しが増えてしまうことで、子どもからすると自由にできる時間が減ってしまいます。非認知能力の育成には、子どもが自分で考えてできたことの成功体験の積み重ねが重要となってくるので、その経験を積みにくくなることも可能性としてはあるかなと思います。
著書の『世界標準の子育て』の中でも書かれていた「子どもの強みの見つけ方」で勉強やお手伝いといった真面目な領域ではなく、遊びを通じて子どもの強みを見つけてはどうかというところがすごく面白い視点だなと思ったのですが、このあたり詳しく教えていただけますか?
船津
個人的な感覚としては、遊びの中で子どもの強みを見つけていくというのはお父さんが上手にできると思っています。一般的にお母さんは情緒的、感情的に子どもと付き合うと思うのですが、お父さんは客観的に子どもを見ていくことができると思っています。子どもがどういう特性を持っているか、グループの中でどういった役割を持っているかなど、お父さんは見極めるのが得意だと思うんですよね。私に寄せられる質問で習い事に関するものも非常に多いのですが、その時も習い事に関してお父さんが関わる時間を増やすことによって良い方向にいくことが多々あります。
子どもの得意領域を見つけて伸ばしていくことをお父さんに能動的に取り組んでもらうためには、どういったきっかけ作りなどが必要でしょうか?
船津
私は週末(休日)だけでいいから付き合ってくれという話でいいのではないかと思います。おすすめは親自身が好きなことを遊びとして子どもと一緒にやることです。その遊びの中から子どもの特徴、向き不向きを見つけてあげて他に活かしてみるというところをお父さんに担ってもらえば良いのではないかと思っています。
子どもの習い事がなかなか継続しないという悩みを持つ親も多いと思うのですが、そのあたりについてはいかがでしょうか?
船津
習い事も勉強もそうですが、できないことはつまらないですよね。グループの中でうまくできる子というのは必ず親やコーチのサポートを受けています。子どもに「自分もできる」という感覚を持たせるためには親もそれなりに伴走していかないと難しいと思います。平均レベルだと子どもの自信には繋がらないので、平均より高いレベルでできる分野が何なのか、そのために何をしたら良いのかを親子で考えていくことが必要だと思っています。私は「カゲレン」と呼んでいますが、周りより上手になるために陰で練習してから習い事に参加させると早い段階で辞めたいということはほとんどないと思います。
少し話題は変わりますが、コミュニケーション能力を育む最高の方法は演劇だというお話に大変興味を持ったのですが、詳しくお聞かせいただけますでしょうか?
船津
子どもに演劇を少し勉強させるだけで圧倒的にコミュニケーション能力は身につくと思います。コミュニケーションは技術で、掛け算のように、やれば誰でもある程度は身につけられるということに気づくと思うんですよね。最近ではワークショップ形式で行なわれる体験演劇のようなものもあるので、そういった体験をさせることで子どもに新たな発見、気づきを与えることができると思います。
子育ての本質は子どもの良い面をどう引き出して伸ばせるか
日米の教育現場で30年に渡り、5000人超のグローバル人材を育成されてきた中で、感じたこと、見えてきたことなどはありますでしょうか?
船津
それぞれの国やカルチャーによって細かい部分は違いますが、本質的な部分は同じで「子どもの良い面をどう引き出して伸ばせるのか」ということを親が完全に理解し、サポートし続けているというのが成功している子どもたちに共通する部分だと思いますね。良い大学に入れたら終わり、良い会社に就職できたらOKという考え方はしておらず、常に子どもを励ましてコミュニケーションを密にとっていて、親や家庭がホームになっているというのが一つの特徴ですね。
家族揃って食事をするということが大切だと本の中でも書かれてましたが、このあたりも詳しくお聞かせください。
船津
家族が揃う場所という意味でも食卓以外はなかなか難しいと思いますし、そこで話をしていれば子どもの異変にもすぐに気づくことができると思います。その時に問い詰めるのではなくて寄り添い、子どもを安心させることが重要だと思っています。平日に会話をしながら食事をする時間を取れないのであれば、休日だけでもしつこく質問したり、小言を言うのではなくて、なるべく明るく楽しい話をしようという点だけ気を付けてもらえれば良い関係は保てるのではないかと思います。
親が「寛容になる」ということが子どもの心理的安全性を実現する上で大切なポイントだと思うのですが、いかがでしょうか?
船津
そうですね。あとはコミュニケーションの基本ですが親が聞き上手になるということでしょうね。親がごちゃごちゃ言うのではなく、うまく引き出してあげるということも心掛けてあげるといいのではないかと思いますね。
話を引き出すテクニックとしてはどのようなものがありますか?
船津
話す分量を自分が1、子どもが9くらいの意識でいることだと思います。実際はそうならないでしょうけど(笑)。私がいつも言うのですが、1回叱ったら3回褒めろといってもなかなか難しいですよね。
「褒める」ということに関して、日本の親がなかなかうまくできないというような悩みをよく耳にするのですが、このあたりはいかがでしょうか?
船津
そこに関しては、お父さんかお母さんか、子どもと異性か同性かということにもよってくるとは思うのですが、夫婦の中で役割分担をしっかりしておくことが大切だと思います。私の家庭の話をしますと、妻が子どもに優しくて褒めるということが得意だったので、そこは妻に任せて私は勉強や習い事に関する技術的な部分を教えるということを夫婦間でコンセンサスをとって接していましたね。